アートマガジン LR
−LIVE AND REVIEW No.7
1998.3
LR ARTIST INTERVIEW

−館さんの作品の特徴は爽快なストロークとなんともいえない綺麗
な色ですよね。

 以前は絵の具のままの色を使っていたんですが、7,8年前、写
真の学校に関わるようになってから今のような色の出し方に変わっ
てきました。写真の色って光の色ですよね。できるだけ透明感のあ
る色味や光と影のコントラストを画面の中に表出したいと思うよう
になりました。例えばバックのストロークは影の部分、形態自体の
色は光の色というように。明暗のコントラストはイメージを作り出
すためのひとつの要素と考えています。大胆なストロークと繊細な
細い線のコントラストも同様ですね。自分の中で相反する価値観が
同一画面の中にあることで、そこからエネルギーが派生してくると
思うのです。もしひとつの価値観しかなかったら画面は静止したま
まかもしれない。だから、相反する価値観をできるだけ画面に取り
込もうとしています。

−スピード感のある画面を生み出すプロセスは?

 作家によっては日常的に絵を描ける人もいますよね。でも自分の
場合はそうではなくて絵を描くことは儀式に近いんです。まずアト
リエに入るのが怖い。でもそうしないと作品ができないから精神的
にも「今から描くぞ」ってボルテージを上げていきます。自宅から
車で30分くらいのところにアトリエがあるのですが、渋滞にはま
っていい精神状態がつくれそうにもないと思った時は引き返してく
ることもあるんです。絵を描くのに緊張感がなかったら気の抜けた
ビールみたいになってしまいますから。緊張感が維持できているか
らこそ自分の中で作品として成立していると思うんです。そのメン
タル的な部分を抜きにしたら、自分の作品は同じようなパターンを
繰り返しているのと変わらなくなってしまうんじゃないかな。だけ
ど年中そんなテンションを持続していたら今頃気が変になっている
でしょうね。だいたい展覧会2ヶ月ぐらい前からですね、テンショ
ンを徐々に高めて調整するようにしています。展覧会が終わるとプ
ロ野球選手のように自主トレから始まって、徐々に身体や気持ちを
整えていくわけです。でも自己調整をして挑んでも自分の思ってい
るイメージがなかなか画面に定着できないこともあります。それは
自分の価値観が表現できなかったということでもあり、自分の価値
観がそこで崩壊してしまうことになりかねません。極端な言い方に
なりますけど、うまくいかなかった絵というのは自己否定に繋がっ
てしまうんです。アトリエにはできるだけ自分の作品を隠して制作
するようにしています。完成した絵を壁に立ててというのはナルシ
ストが自分の顔写真を貼るようなもので、自分にはできないなって
(笑)。作品は自分自身ですからね。