ART VIEW 15 アーティストインタビュー

−最初に館さんの作品についてお聞きしますが、まず描かれている
形について評論家は羽虫、花弁などといった解説をしているようで
すが、ご自身にはその形をイメージするモチーフのようなものがあ
るのでしょうか?

絵画のイメージを構成する要素として、形態・色彩・メディウム・
タイトル等いろいろな要素があります。作品のイメージは、それら
の要因の相関により観賞者に想起されるものであり、その一つ一つ
を取り出してその機能を語ることはあまり意味をなさないと思いま
す。作品に現れる形態から個人の視覚体験として「花弁」「羽虫」
に似ていると認識し、イメージを想起する起因の一つにはなり得て
も、それ自体は作品の全体のイメージにはなり得ないのです。絵画
の自律性の確立の過程において絵画のイメージは排除され、80年
代におけるイメージの復権がその反動と仮定するならば、80年代
までの流れは現在の絵画におけるイメージの問題を語る上での前提
となるのです。80年代のニュー・ウェーブの作品は作家の個人的
趣向性のみに依存したイメージの表現であり、観賞者はその作家の
趣向性のみしか判断できない。その場合、作家と観賞者が同一の趣
向を持ち合わせている場合のみしかイメージを共有することができ
ず、そのイメージは普遍性を持ちにくいのです。私の作品で問題に
しているのは、絵画においてのイメージの在り方であり、その模索
です。この場合のイメージとは何かを形容するイメージではなく、
作品によって作者と観賞者が共有できる「イメージ自体」の在り方
です。絵画のイメージを構成する要因を等価値に作品に提示するこ
とにより、観賞者はそれらを起因として作品のイメージを創造し、
「イメージ自体」を作者と共有する。その時、そのイメージは絵画
を媒体として普遍的になり得る可能性があるように思うのです。

−作品(タブロー)のひとつには、深い緑と部分と白い部分とが見
られますが、今度はそれぞれの色からイメージするものを挙げて下
さい。

光と闇。

−また形に戻りますが、最近のタブローには丸い形態が登場します
が、作品の中の円も含めて円、球体というものをどのようにとらえ
ていますか。

作品の中での「丸」の形態は先に述べたようにイメージのひとつの
要因として、他の要因との相関によって機能するものであり、丸い
形態自体が意味を持っているのではありません。しかし「円」「球
体」は、どんな角度の視点からでも形としての性格を損なわず、図
像としても閉じた形態であることから、内包する豊饒な力を感じる
形態であると思います。
(1992.6.15)