2005.7.8 毎日新聞 展評
Oギャラリー 個展

三田晴夫

 どの画面でも、周縁部の一点で絵の具が小山のように盛り上がっ
ている。まるで離れた位置から力まけせに、カンバスめがけて投げ
つけられた絵の具の塊みたいだ。黒の上に分厚く白が折り重なった
塊の周囲を、波紋がぱぁっと広がっていくように、暗緑色の染みが
うっすらと弧を描いて取り込む。
 それだけではない。淡黄色の余白には、ぶつかった衝撃の跡のよ
うな無数の飛沫が点在している。昔の前衛なら実際に投げつけてそ
うしたかもしれないが、現代の画家・館勝生は違う。絵の具の塊は
おろか、偶発的に見える染みも飛沫も、相応の意図をもって描かれ
たものである。
 カンバスという空白の海から、どう表現を立ち上がらせるか。分
厚く盛った絵の具を力強く押し広げた前シリーズ同様、ここでも絵
画発生の端緒を見届けようとする、画家の並々ならぬ意識が感じ取
れる。画面の一隅に刻まれた像が、イメージの磁力圏をふくらませ
ていく手応えとともに。