Bien25号 Mar−Apr 2004 特集:平面、魅せます!

無著名

「究極のストロークがめざすもの」

 館勝生は1980年代にアメリカのニューペインティングが日本
でニューウェーブという形に翻訳され、ムーブメントとして勃興し
た直後に出てきて頭角を現した作家のひとりである。VOCA展で
も活躍した彼の作風を特徴づけるものはストローク。画面にダイナ
ミックなまでに充溢するストロークは、余人の追随を許さない技量
を伺わせる。
 ニューペインティングはフォーマリズムへの反動として生まれ、
個人的なモティーフを絵画世界に投影しているのが特徴。館の作品
は、生家が養蜂家であったことから、虫や花を具象的に描いている
と指摘されたり、あるいはひところ題名を聖書から取っていたこと
もあるのでモティーフと作品の関連がよく言及される。だが個人的
なモティーフのヒントはあるにせよ、それはいわばきっかけであり
作品自体は絵画世界そのもので完結するすごみを持つ。
 「写真の色って光の色ですよね。できるだけ透明感のある色味や
光と影のコントラストを画面の中に表出したいと思うようになりま
した。たとえばバックのストロークは影の部分、形態自体の色は光
の色というように。明暗のコントラストはイメージを作り出すため
のひとつの要素と考えています」。通常は図と地の構図を色面で構
成場合が多いが、彼の場合ストロークで成り立っているところが特
徴である。また絵画的技法にとどまらず、光を意図的に描く写真表
現性を導入しているためリアリティの実験が同時に行われているこ
とも指摘したい。彼の作品には数々の引き出しがあり、まさに豊か
な鉱脈と言える。