1994.5.28 京都新聞
兵庫県立近代美術館 アート・ナウ’94

無著名

「アート・ナウ’94−新鋭ら13人が新作」

 関西における現代美術の息吹と動向を紹介し、新しい才能の登竜
門ともなっていた「アート・ナウ」展は、いったん中断後、2年前
に装いを変えて再出発した。2年に1回というビエンナーレのスパ
ン、従来の美術評論家による推薦という作家選抜から、主催美術館
の学芸員が主体的に作家を選抜するといったことなどが、新たにス
タイルを変えた点だ。
 新しい趣向では2回目となる今展は、13人が選ばれ、新作を並
べている。従来の形式の長所が、関西の現代美術の最先端の熱気を
総花的に提示する点にあったとすれば、新しい運営スタイルの強み
は、作家をある程度しぼり込み、現代の美術状況に対する切り口と
もいうべきテーマを設定できることにある。事実、今展では「啓示
と持続」のサブタイトルが用意され、企画者の問題設定に沿う作家
が選抜されているはずなのだが、テーマと作家の選抜とが折衷的に
なったせいか、作品自体に説得力が乏しいためか、いまひとつ展覧
会の主張となって迫ってくるインパクトに弱い。
 「啓示と持続」を絵画の表象として暗示するのは、館勝生や石川
裕敏、渡辺信明。イメージが具体的なイメージの形をとろうとする
直前の生成のエネルギーが、館の場合には激しく、渡辺の場合には
朦朧と塗り込められている。
 リトグラフ版画を270枚も縦横に連続させて、オットセイのよ
うな巨大な海獣のイメージを浮かび上がらせるのは出原司。過去の
アート・ナウにも選ばれている陶造形の星野暁と、彫刻の川端嘉人
の2人は、星野が指の痕跡を凝集させた黒陶の断片を無数に連続さ
せて、土と人間の手とのプリミティブなかかわりを情念色濃く示せ
ば、いまひとりの川端は、重厚長大な鉄板箱型造形にドライアイス
を詰め、周囲の空気が冷やされて鉄板表面に氷着した白い表層の時
々刻々の変化をダイナミックに印象づける。
 のぞき込んで見るという行為を相対化するインスタレーションの
森田多恵や、ミクスド・メディアの中川佳宣、飛散する黄色い花粉
のように正方形の黄色いキャンバスを横一列に並べ希望者に後でプ
レゼントする山口高志、さらには映像の寺嶋真里…。若手世代なら
ではの軽いノリやポップ感覚の発表もある。