1991.10.1 毎日新聞 展評
永井祥子ギャラリーSOKO 個展

三田晴夫

 いま一度、矩形のカンバスという原点に立ち戻って、絵画から新
しいバイタルな力を引き出そうとする若手画家たちの活動が目を引
く。その中でも、なお混沌とした要素を引きずりつつ絵画の生命を
開示させているような強い息吹を印象づけるのが、関西を本拠とす
る館勝生だろう。新作八点を並べた東京での初個展は、その本領を
うかがう格好の機会となった。
 アクリル絵の具による紙作品一点を除き、いずれも油彩のカンバ
スで、表現の基本的な構造も、シリーズと名づけたくなる共通性を
持つ。そこでは基底をなす乳白色系の色面と、それに覆いかぶさっ
ていく暗緑色の一群が、画面の随所で、せめぎ合い、溶け込んだり
といった確執を演じ続けるのだ。
 規則的な垂直方向のストロークは激しく乱れ、無数の霧滴のよう
に飛び散っていく。また新たな不定形の筆触に変じて、さまざまの
起伏を描きながら、別方向へと流れ出す。こうした混沌とした動き
の中から、昆虫の羽だとか花弁を思わせるフォルムが、おぼろげに
浮かび上がってくる。それは未分化な画面に何かをふ化させようと
する力の表徴とも思えてならない。