1994.3
上野の森美術館 現代絵画の展望 VOCA展 カタログ

尾崎信一郎(兵庫県立近代美術館)

 1980年代の絵画におけるイメージの再生は実際には借用とい
う名のもとに安易で脆弱な図像の垂れ流しを惹起したように思われ
る。館勝生はこのような時流に抗して、一貫してイメージの生成そ
のものを絵画の主題に据えてきた。
 一見したところ様々な連想をかきたてる館の独特の形象は、その
実、いかなる対象も仮託されていない。画面に繰り広げられるのは
イメージについてのイメージであり、かかる自己言及的な姿勢はモ
ダニズム絵画の衣鉢を継ぐものと言えよう。
 館において特筆すべきは、イメージの生成という主題の探求が形
式的強化を誘発した点である。近作では初期作品に濃厚であった絵
具の物質性は解消され、垂直に流動する薄塗りの背景と多くのS字
形の屈曲を伴った形象が画面に透明感と曖昧な奥行きと共に賦与し
ている。多義化された絵画空間はあえやかな色彩を得てイメージの
出現という啓示の瞬間をとどめる。