1993.2 モリスギャラリー 表層の冒険 カタログ

谷川渥

上下を走る垂直のストローク、そのストロークに抵抗し、時にそれ
を遮断する比較的明瞭な色相、タッチの疎密、そして色相の微妙な
変化、それらが館の作品世界を織り成す絵画的要素である。暗緑色
ないし暗褐色と乳白色との対比は、必ずしも地と図、後景と前景と
いった差異を生じさせはしないが、それでもおのずからそこで闇と
光、質料と形相との対比とメタフォリックな関係をとり結ぶことに
なろう。それゆえ画面は、ちょうど夜闇のなかに降る雨によって何
ものかの輪郭がおぼろげに浮かび上がるような、あるいは深海のな
かで発光し始めたゾーン(場)が、それ自体何かの形をとろうとす
るような様相を帯びる。いずれにせよ、そこでは質料性のただなか
での形象の未だあえやかな胎動が問題になっているといっていい。
それが「有機的」な様相を帯びざるをえないのも当然の事態ではあ
る。タイトルとイメージの距離を遊ぶことも、絵を見ることのひと
つの契機となる。