1992.11 京都市美術館
筆あとの誘惑−モネ、栖鳳から現代まで カタログ

中谷至宏(京都市美術館)

眼にしているのは絵画平面にたった今生まれたばかりのかたち、あ
るいは何かが生まれくる気配なのかも知れない。館勝生が追い求め
るのは常にイメージの生成状態である。本作品は《バラのつぼみ》
という名が与えられているが、むろんそれを抽出しようとしている
のではなく、つぼみという可能態とローズという艶を持った言葉が
たまたま見いだされただけなのだろう。花弁を思わせるかたちが僅
かな線と明度の差異によって浮かび上がり、厚塗りのストロークの
せめぎあうかなめの部分にくくりつけられ、垂直に流れる薄い絵の
具の層はかたちを溶かし込みながら一気に落ち掛かる。青くさい緑
に光が透過してかたちの生まれ来る一時に輝きを伝えている。せめ
ぎあうストロークはイメージの現在性の機縁となりながらも、その
行為は常に遅れながら進んでゆく。だが絵画に実現するイメージと
して、その遅れが現在性の厚みに転嫁する事実に絵画の本質的な可
能性の一端を見る想いがするのである。