2000.1 Oギャラリー個展 リーフレット

加島牧史

 水の中が好きだ。風呂でも、温泉でも、プールでも、海でも、体
液のなかでもよい。プカリと浮かび、デレーと力を抜く。たちまち
浮力が生まれ重心を失う。なにかがはずれる。体液と水が共振を始
め境界が崩れ出す。
 お風呂で風船に水を入れてよく遊んだ。水の入った風船は、ボヨ
ヨーンとして掴みどころがない。そのことがなぜか面白くそれをお
湯に浮かせたり、グニャとねじったりする。そのうち、その掴みど
ころのなさに怒りを覚えた。赤い風船を無理やりに掴もうとやっき
になりはじめた。遊びがいつか真剣になり無理な力を加えた。ゴム
が裂け水が飛び散った。湯に冷たい感覚と無惨にも形を失った赤い
ゴムだけが残った。
 透明な自分、透明な袋になってしまう。光がからだを通り抜けて
行く。さっきまであった目で、ものを見ている筈なのだが、その目
の在りどころさえ見つけることはできない。光と実体の狭間に目を
落っことしてしまった。透明になってしまった眼球を見つけるには
どうしたらいいのだろう。いったい何でその所在を確かめたらいい
のだろう。
 リズムがある。ふたたび生まれるリズム。しばらく忘れていたリ
ズム。突如として襲ってくるりずむ。共振し爆発するりずむ。ハー
トビート?天体の運動?歴史のムーブ?これらリずムの中でふかく
フカク呼吸をしようと意志する固体。
 さあ、水のベットで絵を見よう。絵の前の水のベットに転がって
絵を見る。自分が水になったら、絵はわたしを見てくれるかい?